神戸地方裁判所 昭和25年(モ)107号 判決
申立人は、「神戸地方裁判所昭和二五年(ヨ)第四〇号仮処分命令申請事件について、同裁判所が昭和二十五年二月十三日なした仮処分決定は、申立人が保証をたてることを條件としてこれを取消す、訴訟費用は被申立人の負担とする。」との判決と仮執行の宣言とを求め、
その理由として、神戸地方裁判所は、被申立人の申請に基き、昭和二十五年二月十三日申立人に対し「申立人(債務者)の加藤式冷凍機一台(附属品共)に対する占有を解いて、被申立人(債権者)の委任する神戸地方裁判所執行吏に保管させる、執行吏は適当な保管方法をとることができる」旨の仮処分決定をし、右仮処分命令は、同月十五日執行された。そこで、申立人は右仮処分命令に対し異議を申立てた結果、同年三月二十日言渡の判決により、前記仮処分決定は「右機械に対する申立人(債務者)の占有を解いて、被申立人(債権者)の委任する神戸地方裁判所々属執行吏の占有に移す、執行吏はその現状を変更しないことを條件として右物件を申立人(債務者)に使用させることができる」と変更されたのであるが、右判決には仮執行の宣言が附されていない関係上、その確定を見るに至るまで、右判決は執行せられ得ず、しかも現に右判決は上訴により確定していないので申立人は前記仮処分決定の執行を受けたまま、本件機械の使用を許されていない状態にある。
然しながら、申立人は右冷凍機械を使用してアイスキヤンデー、アイスクリームを製造販賣し生計をたてているものなのであつて、しかも時すでにその製造販賣を開始すべき季節となつており、殊に本年は申立人営業所附近に神戸競輪場が設けられた関係もあり、申立人としては四月一日からその営業を開始する計画をたてていた矢先に、右仮処分決定の執行を受け、唯一の営業手段である冷凍機械の使用ができなくなつた結果、申立人の受ける日々の損害は甚大であり、前記判決の確定を待つていては、営業の好機を徒過し、申立人一家の生活は重大な脅威を受けることとなるので、右仮処分決定を取消すべき特別事情あるものとして、本申立に及んだと述べた。
被申立人は主文第一項と同じ判決を求め、
答弁として、申立人被申立人間に申立人主張通りの仮処分決定及びその執行がなされ、これに対し申立人が異議を申立てた結果、申立人主張の如き判決がなされたが、それは確定しないでいることは認めるが、その他の申立人主張事実は否認する。申立人が右仮処分異議事件判決の確定をまたずに、本件取消申立をしたのは、失当であると述べた。
三、理 由
申立人、被申立人の間に、申立人主張の如き仮処分決定があり、これにつき申立人が異議を申立てた結果、昭和二十五年三月二十日申立人の主張の如き内容の判決が言渡されたことは、当裁判所に明かなところである。
然しながら、仮処分命令は、それが判決の形式を以てなされた場合でも、その言渡と同時に執行力を生じるものであつて、一般の判決が、特に仮執行の宣言が附されていない限りその確定をまつて始めて執行力を生じるのと趣を異にすることは、民事訴訟法第七百四十九條各項の規定から見て明かなところである。しかもこのことは仮処分申請について直に口頭弁論を開いて、始めから判決の形を以て仮処分を命じた場合でも、また一たん決定を以て仮処分を命じた後、異議申立があつて口頭弁論を開き改めて判決を以て仮処分を命じた場合も同じである。ただ後者の場合は、さきに仮処分決定がなされてある関係上、それと同一内容の仮処分を命ずる場合は、原決定の認可という形でなされ、しかも原決定の執行は、異議申立によつて停止されることなく続いているので(民事訴訟法第七百四十四條第三項)その判決の執行力の開始時点は一應問題とならないということと、また、原決定を取消す処置に出た時は、その判決は仮処分を命じる判決ではないので一般の判決と同じく言渡によつて直に執行力を生じないので、確定前に執行力を生ぜしめるためには、特にこれに仮執行の宣言を附さなければならないという特殊な点がある。然しながら、本件仮処分決定に対する異議申立についてなされた前記判決は、その文理上明かなように、原決定の全部または一部の取消をしたものではなく、ただ、申立人の異議申立に基いて口頭弁論を開き、被申立人(債権者)の仮処分申請を檢討した結果、右判決に示す如き内容の一の(原決定における処分とは異る)仮処分を命じたにすぎないのであるから、一般保全処分命令を判決の形でした場合と同じく、その判決に仮執行の宣言を附するまでもなく、当然その言渡により執行力を生ずべきものであり、あえてその確定を待つを要しないのである。從つて、原決定が命じた仮処分は、その内容が右判決における仮処分と矛盾する限りにおいて、右判決言渡により当然その効力を失うに至つたというべきである。そうすれば、申立人が本件において取消を求めている如き内容の仮処分命令は現に存在していないこととなるから、本件申立はこの点においてすでに失当であるのみならず、前記判決において定められ、現に執行されてあるべき仮処分においては、申立人に本件物件の使用を許している(但しその現状を変更しないことを條件として)のであるから、その使用不能であることを前提として申立人が主張する取消原因は、今や空に帰したともいえる。
以上の理由により、申立人の本件申立はこれを失当として却下し、申立費用について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 細見友四郎)